1. 4.「老い」の肖像―William Faulknerの The Mansion

4.「老い」の肖像―William Faulknerの The Mansion

相愛大学 山下  昇

 

The Snopes Trilogyの最後を締めくる作品となる、William Faulkner (1897-1962)のThe Mansion(1959)は1930〜40年代を主たる時代とする物語として設定されているが、制作年代である50年代という時代とその時代における作家の実人生が大きく影を落としていると考えられる。John T. Matthewsがこの作品を“Faulkner’s Cold War fable”と呼び、Laurence H. SchwartzがCreating Faulkner’s Reputationで詳らかにしているように、この時代のFaulknerは60歳代の「晩年期」を迎えるとともに、1950年のノーベル文学賞受賞を契機として、「アメリカのスポークスマン」として世界各地に講演旅行を行い、国際的な視野を広げながらも、折から激化しつつあった東西冷戦の対立に否応なしに巻き込まれていった。また、この冷戦がらみの出来事としてマッカーシズムによる思想統制である「赤狩り」が一世を風靡した。あるいは足下では公民権運動が激しく展開され、彼も人種問題に対して発言せざるをえない状況に置かれた。なお、本格的な展開は彼の死後となるものの、Betty Friedan, The Feminine Mystique(1963)の刊行に見られるように、この時代に既に女性解放運動の予兆が感じられていた。FaulknerがThe Mansionを書いたのはこのような時代のコンテクストにおいてである。

Judith Bryant Wittenbergは、作家がこの本を書いた時に60歳を超えており、小説の多くの要素が「死が近づいていることを意識した老人の作品であり、作中人物のすべてが老いており、徒労感に満ちている」と述べるとともに、Mink Snopesがほとんど作家自身の年齢であることを指摘して、「ミンクにとって死は安らかな忘却であるが、おそらくFaulknerもそこに自分の死を予見していたのだろう」と主張している。作中における死に関する描写で言えば、物語の結末の部分において、地位や名誉を得たFlem Snopesについて、その死には人生の空虚さが強調されている。そしてその死を語るGavin StevensもV. K. Ratliffも、もはや「老人」であり、物語はミンクの死に関する描写によって閉じられる。

このように作品全体を「老い」のムードが支配している本作だが、その「老い」の意味は単に「衰亡」と「無力感」のみではなく、「解放感」、「達成感」、「成熟」あるいは「新たな広がり」と呼べるものまでを含んでいる。それはすべての主要登場人物の描かれ方と物語の展開に反映されており、特にミンクとLinda Snopes Kohlの物語に顕著である。1950年代という制作時の時代背景もあり、作品における人種問題と共産主義のモチーフの扱いに、作者の新たな視野の獲得が垣間見られる。また、しばしば作者の「代弁者」と見做されるギャヴィン・スティーヴンズの最終的な認識にも、諦念と共に新たな現実感覚が見受けられる。これらが「老年」の作家の「老い」の多面的な表象である。