1. 1.南部スモール・タウンと銃 ―― 境界のスパイラル

1.南部スモール・タウンと銃 ―― 境界のスパイラル

花岡 秀 関西学院大学


銃とは弾丸を発射することによって、相手を殺傷する武器である。弾丸そのものは自ら回転しながら空間を移動するため、発射する人間と狙われる人間との間には空間が存在する。弾丸の空間移動という視点から銃を眺めるとき、銃はさまざまな「境界」を越えると同時に、その「境界」を映し出し、また新たな「境界」を創り出すものでもある。さらに、銃の使用には、使用する側あるいはされる側に必ず「恐怖」が伴う。この「境界」と「恐怖」をキーワードとして、南部スモール・タウンを舞台とした Faulkner の作品を中心に、小説に描かれた銃を検証する。

そもそも南部とは、空間的にも時間的にもさまざまな「境界」を意識し、「恐怖」に付き纏われてきた地域である。黒人と白人という埋め尽くし難い人種の「境界」、南北戦争を境とした歴史の底知れぬ断層、人種に絡む錯綜した「恐怖」に彩られてきた場が南部である。このように南部を捉えれば、南部小説に埋め込まれた銃は、「境界」を映し出し、さまざまな「恐怖」を集約するものとしての姿を鮮やかに浮かび上がらせることは想像に難くない。しかし、作品に描き込まれた銃はいささか複雑である。本来備えているはずの役割が歪められ、機能を果たさない銃が登場してくる。銃が明確に映し出すはずの「境界」は、曖昧でねじれ、それどころか「境界」を確立できない場合すらある。このように南部小説に描かれた奇妙な銃は、南部を取り巻くさまざまな神話と絡み合って、南部の複雑な局面を提示することになる。さらには、銃は、銃が内包する多様なイメージを喚起し、南部スモール・タウンから外の世界へとその射程の拡大を窺うものとして、その不気味な存在感を膨らませて、読者に迫ってくるのである。