1. 4.生存者David Toddの終りなき任務 ―― Tim O'Brien の July, July

4.生存者David Toddの終りなき任務 ―― Tim O'Brien の July, July

野村 幸輝 旭川大学(非)


Tim O’Brien(1946- )のJuly, July (2002)は、1969年7月から2000年7月までの、ベトナム世代の同窓生たちの遍歴を綴れ織った小説であるが、その男女の中に戦争体験者David Toddがいる。戦場で歩兵小隊の隊長だった彼は、誤った判断によって自分の隊を敵の待伏せ攻撃に遭わせ、隊を全滅させてしまう。自身も両足に重傷を負う一方、幻聴の中に聞こえてくるもう一つの声Johnny Everとの交渉の末、隊唯一の生存者として帰還を果すものの、戦後は罪の意識に苛まれ、痛みを隠蔽し、苦悩の世界で葛藤する。本発表では、戦闘トラウマにおける想像力や幻覚の役割を議論した上で、分裂したふたつの自己の間における葛藤の中に生き残りへの可能性を模索することで生存者としての任務を果そうとするDavidの姿について考察していきたい。そして、彼の物語に達観者とも悲観者とも読める存在Johnnyを忍び込ませた自伝的作家O’Brienの意図するものを探りたい。

事実、Davidの物語には頻繁にJohnnyの声が介入し、彼の運命を予言する。戦場での数日間が第2章に描かれており、そこでのJohnnyは、瀕死のDavidを生き永らえさせるための話し相手として機能する。一方、戦後の人生を描く第21章でのJohnnyは、無難に社会復帰を果そうとするDavidの脳裏に亡霊のように付きまとい、果ては罵り声として寝言にも登場し、妻Marlaを狼狽させる。離婚後、Davidはあらかじめ想定した/された償いの人生に没頭するあまり、妻との人生を創り得なかったそれまでの生き方を内省するようになる。しかし、Johnnyを単なる悪役と断定することもできない。と言うのも、JohnnyはDavidに戦場での惨事、つまり過去を想起させることで、彼の目前にある生を意識させる役割を果しているからである。また、Johnnyの全知的な語りから判断して、この声の正体が、ベトナム戦争の戦後トラウマを熟知、経験してきた中年帰還兵O’Brien自身であろうことは想像に難しくないし、そのような作家が主人公に自殺ではなく、苦悩と内省の人生を選択させることは当然だろう。このように、David Toddの物語には、過去の忘却や抹消にではなく、死への忠誠と生への愛着、沈黙と剔抉の狭間における終りなき相剋の中に生き残りの道を探ろうとする生存者Tim O’Brienの姿すら見え隠れするのである。