1. 4.幻想かポストモダンか――Todorov以降の幻想文学批評の再検討

4.幻想かポストモダンか――Todorov以降の幻想文学批評の再検討

長澤 唯史 椙山女学園大学


本発表では、ファンタジーやSFなど、リアリズムとは異なったスタイルや様式を持つ文学形式の再評価を通じて文学史の再構築をめざし、その前提としてNorthrop Frye以降のジャンル論の再検証を行うことを目的とする。

相対性理論や量子力学に見られる経験的現実への不信と、新たな現実世界の構築という20世紀的思考が文学の中にも見られることは周知の事実である。このような”Literature of Unreality” (Rosemary Jackson)とも呼ぶべき新たなジャンルを取り込んだ文学史・文学論の試みは、Raymond Williams, Tony Tanner, Patrick Parrinder らの論者によって、1980年代前半までは活発に行われていた。しかしその後はポストモダニズムの流行の中で、ジャンルの消滅あるいは溶解という議論に回収されていく。ところがそこから派生したのはジャンルの融合どころかジャンル内での再分化と再ジャンル化、さらに文学研究とジャンル批評の乖離、批評のジャンル化・ゲットー化とも言うべき現象であった。

最近Mark Twainなど個別の作家研究の場で、ジャンル論との再接合が試みられているものの、文学史全体の再検討といった、ある種の「野蛮さ」を伴った検討には到っていない。本発表においては、あえてその「野蛮さ」を引き受け、「非現実の文学」をあらためてジャンル論の文脈から再検証することによって、既成の文学史への新たな視座を提供することが可能かどうかを考察したい。そのためのステップとしてまずは、これまでのジャンル論の再検討とその問題点の指摘を行い、可能であればジャンル論と文学史の接合の可能性を検討する。

ジャンル論の再検討の手掛かりとして、Northrop FryeのAnatomy of Criticism (1957)が提示した批評モデルの妥当性を、Christine Brook-Roseなどの議論をもとに検証する。その上でフライの曖昧さを補正しようとしたTzvetan TodorovのThe Fantastic (1970)からRosemary JacksonのFantasy (1981)までの幻想文学論の功績とその限界を明らかにする。さらにこうした作業を通じて見えてくるであろう、「ロー・ファンタジー」と「ハイ・ファンタジー」の区分の重要性と、主流文学とジャンル文学の区分との密接な関連、そこに垣間見える新たな文学史の可能性も指摘したい。