1. 3.Toni Morrisonのパリンプセスト――Song of Solomon の下部テクストとしてのソフォクレスの『エディプス王』と『コロノスのエディプス』

3.Toni Morrisonのパリンプセスト――Song of Solomon の下部テクストとしてのソフォクレスの『エディプス王』と『コロノスのエディプス』

奥野 みち子 大阪市立大学(院)


モリソンの作品の多くは、ジュネットがいうところのパリンプセストをなしているが、The Bluest Eye (1970)とSong of Solomon (1977)の場合、下部テクストはソフォクレスの『エディプス王』と『コロノスのエディプス』である。The Bluest Eye は『エディプス王』との相似は一部で指摘されているものの、テクスト全体を検証した批評はなく、Song of Solomon (以下SoS)の下部テクストについては気づかれてさえいない。モリソンは大学で西洋古典学を副専攻したにも関わらず、彼女の作品と古典との関わりは常に過小評価されてきた。発表は SoS に限定し、モリソンが下部テクストから構成、登場人物、テーマを模倣しながら SoS というアメリカ黒人の神話を作り上げていることを検証する。

『エディプス王』の特徴として、従来批評家が指摘するのは、台詞にある様々な「二重の意味」と、「勘違いのパラダイム」と呼ばれる、連続する「間違いの推理」、及び、劇の後半の「急転」がもたらすエディプスの「身元の発見」という真実の「認知」がある。例えば、台詞の「二重の意味」の一つとして、エディプスの台詞に彼が意図しない「予告」という裏の意味がある。SoSはこれらの特徴をすべて組み合わせて進行する。エディプスの名前自体に二重の意味があり、「腫れ足」と、オイダ「私は知る」+ディプス「二本足(人間)」である。SoS の主人公Milkmanの片足が短いのは内面の欠陥を表しているとされ、milk(幼児性)とman(人間)は彼の人間性の変化を予告する。また、SoSの登場人物は下部テクストの人物の特徴が際立ち、複数の人物が一人に該当する場合もある。例を示すと、Pilateは「臍」がなく、(半熟)卵が好きで、娘Rebaと孫娘Hagarと三人でよく合唱をする。彼女はMaconに蛇と非難されるが、実際に蛇の要素を持つ。Pilateの家族の原型は、『コロノスのエディプス』の「復讐の女神たち」であり、彼女らはアイスキュロスの『慈しみの女神たち』ではコーラス役なのだ。彼女らの髪は蛇で出来ているが、蛇に臍はないし、その好物は卵である。Pilateが身長を自在に変えるのも蛇だからである。彼女が娘を苦しめる男の心臓にナイフを突き立てるのは、残酷な復讐の女神として当然の行為である。Hagarは「大蛇のような愛」をMilkmanに抱くが、「気取りや」で「人のいうことを聞かない」という彼女の性格は「この女には高貴な生まれを喜ばせておけ」とエディプスに非難されるイオカステの性格に似ている。MilkmanとHagarは「近親相姦」の関係があり、『エディプス王』にある「近親相姦」の模倣である。他に、二つの下部テクストにある「スフィンクスの謎」、「アポロン」、「テバイの七将」、“leap”などは、SoSでは重要な意味に利用されている。