1. 国境と人種の語り直し――アメリカ南西部からの声を中心に

国境と人種の語り直し――アメリカ南西部からの声を中心に

琉球大学 喜納 育江


常に生々流転する「アメリカ文化」という表象を、私たちはいかにして理解すればよいのか。この問いは、それぞれの時代における批評の声を聞き取りつつ内部から変容してきたアメリカ文学研究の現在を解読しようとする試みに他ならない。アメリカ文学研究は、ポストモダン、多文化主義、ポストコロニアルといった文学批評理論の骨子となる「人種」・「階級」・「ジェンダー」という主要概念による視点を解釈や分析の中心に据えてきた。しかし、トランスジェンダー、ハイブリディティといった境域概念の出現は、「人種」・「階級」・「ジェンダー」という、文化を理解しようとする際のこうした尺度、あるいは概念そのものさえ、内部からの変容を免れないことを示している。すなわち、従来の批評概念に回収されない物語を語ることが、現代アメリカの書き手による「アメリカ」の「語り直し」であるとも考えられる。

本発表では、米墨国境地帯を包含するアメリカ南西部という場所から生まれる声にこうした「語り直し」の手がかりを求める。白人、プエブロ先住民、チカーノをはじめとする複数文化が混在するアメリカ南西部は、「人種」や「国境」という批評概念による区分線の存在が曖昧になる場所である。すなわち、ある場所が磁場のようにそこに集結する人間の多様な文化や感性に作用することによって、人種や国境などという概念では区分や説明し尽せない文化が生まれるのだ。Leslie Marmon SilkoのAlmanac of the Dead(1992)や、Ana CastilloのSo Far from God (1993)などは、アメリカ南西部という磁場から放たれるそのような境域文化生成の力を表現しているように思われる。ある場所が磁場となり、「人種」や「国境」の概念枠を越える言説を生むそのような感性は、他の場所における他のアメリカの作家、例えばKaren Tei Yamashitaの作品群にも見ることができる。

多様な文化や人種が集う「場所」を中心に形成された共同体と、そこに生まれる境域文化を描く現代アメリカの書き手たちは、「人種」・「階級」・「ジェンダー」という従来の批評概念をのびやかに変容させ、「アメリカ」を理解しようとする試みに新しいイメージを提示しているように思われる。それはまた「アメリカ」そのものの語り直しを提案する今日的アメリカ文学のありようであると言えるだろう。