1. 2.U.S.A. におけるメディアと空間

2.U.S.A. におけるメディアと空間

花田 愛 明治大学(非常勤)


本発表では、Dos Passosの三部作 U.S.A. におけるメディアと空間の関係について論じる。19世紀末以降のテクノロジーのめざましい発達によって多種多様なメディアが生まれ、あらゆる空間が瞬時に媒介されるようになった。ラジオや新聞などのメディアは、単に物理的にそこにあるだけでなく、様々なレベルの空間実践を媒介している。これらのメディアは、オーディエンスとグローバル(あるいはローカル)な空間を結びつける。これらのメディアが配置される空間の間に見られる相互媒介的な関係を捉えるには、言説と実践、媒体の形式が絡まりあう場の政治学を空間論的なダイナミズムとして捉えていくことが必要である。

三部作 U.S.A. でも、独自の手法である4つの各モードそれぞれにおいてメディアの存在が様々な効果を発揮し、小説全体に大きな影響を与えている。「ナラティヴ」においては、大衆文化がメディアを通じて登場人物たちの生活の中に浸透し、それぞれに影響を与えている様子が綴られる。「ニューズリール」では、新聞の広告や流行歌の断片が紙面を踊る。これらの断片は、「ナラティヴ」との並行関係を持ちつつ、独立してその時代の出来事や流行を表象し、共時的に歴史の記録を顕示する。「伝記」には、新聞王として君臨したWilliam Randolph Hearstや映画スターのRudolph Valentinoなどのメディアに関わる人物の肖像が描かれる。彼らの描かれ方からは、Dos Passosのメディアに対する姿勢を窺い知ることができる。「カメラ・アイ」においては、自伝的かつ「意識の流れ」的な語りが展開される。カメラは、本来、映像や写真などの空間的光景を映し出す機械である。しかし、「カメラ・アイ」においては、他の3つのモードと比較しても、最も作家の自己言及的な内容や集団的なアイデンティティを誇示するフレーズが展開されている。

このように U.S.A. では、メディアが広がる空間が全編に渡って描かれている。しかし、風刺的なテクノロジーの発展の描写を根拠に、Dos Passosの立場を反テクノロジー・反産業主義に還元してしまうのではなく、また、これらのメディアによる挿話が、4つのモードの相互補完関係を構築しているという議論に留まるのではなく、Dos Passosが、特権化された個人だけが空間を移動し、空間の実体を手にしていくモダニズム的空間の生産を脱構築する手段の一つとして、これらのメディアで埋め尽くされた空間を U.S.A. の中に作り出していたと考えたい。本発表では、これらのメディアの存在が、いかなる機能を果たしているかを明らかにし、そこにどのような空間的力学が働いているかを検証する。そして、それらを踏まえ、U.S.A. を言説と実践、媒体が絡み合う空間をダイナミックに描き出している作品として再評価したい。